第12回 化粧品開発展(2022年1月)(後編)

後編では、学術系のポスター発表ブースの感想をたんたんと記していきます。

このブースは、大学や研究系公的機関が、化粧品に関与する、または、関与しそうな研究成果を持ち寄るコーナーで、非常に楽しめました。

一番多かったのが、植物などの天然物由来の新規化合物の話です。
ソースとなる植物と発見した分子は違えど、色々な大学がなんだか似たようなデータを出していました。

曰く、古くから日本に伝わる植物材料から今回発見した新規天然化合物が、抗菌効果を持っている。しかも、ヒト細胞に浸透し、炎症反応を鎮める働きがある、というもの。
一つの化学物質が、有害微生物に対して抗菌作用を示し、それと同時に、ヒトの免疫反応の制御にまで良い意味で関与する、というのは、あまりに虫が良すぎて不安になるくらいの、夢のような物質でよね。

免疫と言えば、茨城県の研究機関の報告では、納豆菌が人間の小腸に作用し、人体に良い働きをするとのデータが得られたそうです。しかも Bacillus 属ではなく、あくまでも納豆菌(Bacillus subtilis subsp. natto)に、プロバイオティクス的な効果があるようです。

さて、これら二つの話に共通なのは、どちらも、昔から伝わる植物材料や食物に、人の免疫に良い効果を及ぼす作用がある、というものでしょう。
人類が数百年もしくはそれ以上の歳月をかけて続けてきた、文化というスクリーニング過程の果てに残ったものですから、良い効果効能を持つのは、当然と言えば当然のことではないでしょうか。
昔から郷土に伝わる、塗ったり飲んだりすると良いと言われるよくわからない材料を、丹念に調べ上げたら実はすごいぞ、という研究ストーリーは、とても興味深いものがあります。

次に多かったのが、分子レベルの包埋の話で、大学の他に産総研さんが、アルギン産を構成単位とした分子レベルから日常の食べ物まで、幅広いスケールの包埋の発表をされていました。
我々の日常生活で一番近くにあるものでは、人工イクラがまさにその技術によって商品化した成功例だそうで、他に醤油などにも応用が効くそうです。

他にもさまざまな大学の研究データや公的機関による企業サポートの取組があり、大変楽しませていただけましたが、全体として感じたことは、「どれもサイエンスとしては凄い」ということと、一方、「それがお金に結び付くためのストーリーが浮かびづらい」という口惜しさです。

この点に関しては、研究で飯を食べていた頃から「何とかならないものか」と常々思い続けていることなのですが、現在の日本には、研究者が発見する「なんだか凄い技術」と、企業が求める「売れる商品のアイデア」の間をつないでくれる存在が欠落しているため、研究者も企業もなかなか幸せになれないでいると思うのです。

学者「こんな技術を開発したぞ」
企業「その技術、どうやってうちの商品に活かせる?」
学者「……。」
企業「……。」

という流れになるのは、仕方がないことです。

学者「こんな技術を開発したぞ」
??「その技術を応用して、こんな商品を作ったら人の役に立つね!」
企業「うちで販売したい!」

となるための、両者を繋ぐ「??」のような存在が、現在の日本には特に必要なのではないでしょうか。

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